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　……疲れた。
　日中、頭の上にあった太陽は既に西の端に消えようとしている。もう空は緋あかい。
　結構いろんなトコまわって来たからなぁ……。
　疲れても当然だと思いつつ、すこし思い出し笑いをする俺。でも体の割には気分の方はまったく疲れを感じていなかった。例えるならば修学旅行の、あっちこっち歩き回った後でも夜通し隠れてトランプをしていられた、あのときの気分みたいな。そんな感じだ。
　でも、正直な所歩き飽きて笑う事にも疲れてきた。この辺でインターバルを置くのも悪くないだろう。
　そんな訳で俺は今屋上にいる。
　野球部を去った後は、グランドでミーティングをしているサッカー部の眼の前で、サッカーボールを数個、いきなり蹴って混乱を起こしてみたり、陸上部のハードルを誰かが走るのに合わせて、かたっぱしから倒したりしながら俺は校舎に向かった。
　教頭が外を散歩していたようなので木に登り上から葉っぱを一気に落としてやったりもした。
　ほんとあの驚く顔を見るのが楽しいんだよ。イタズラは。本気で落ち込んだりしない程度の、狐につままれたような疑問や、やられた本人も笑えるような笑いを与えるのが一番の理想形態だと思う。
　引き続いて校舎には鍵の開いている職員玄関の方から侵入。
　まずは少し職員室に寄り道して、先生がパコパコ、パソコンで作っている単元テストの問題をチェック。ついでに傍らにおいてあったコーヒーをぐいっと飲んでくる。
　振り返ればカップに手を伸ばした先生が、空のカップを傾けて不思議そうな顔をしているのが見える。
　その後、階段を上がって理科室へと足を運び、同じ茶色のビンに入っているフェノールフタレインとヨウ素液のビンのラベルを入れ替え、科学部の反応を楽しむ。
　他にも透明な液体の入った試験管の中身を密かに全て水に替えてみたり、ビーカーの液体をBTB溶液で着色しておいた。
　目を離したその隙に、透明な溶液が青くなっていたり、黄色くなったり。はたまた実験結果が常識を裏切り続けたり。
　いつもは成績優秀を鼻にかけているような、そんな連中が理科室でおこった怪奇現象にびびって慌てふためいているのを見るのはちょっと快感だった。
　茶道部でつまみ食いしてきた羊羹はなかなか美味しかった。
　美術部の絵の具を１人１個づつ順番に手で隠して消していったのも大変だったが楽しかった。俺が握れば絵の具は見えなくなるから「あれー？　此処に置いた絵の具きえた？」って驚く顔が見えるのだから。
　今日やってる部活のいたずらツアーを全制覇するまであと残す所吹奏楽部のみとなった。
　でも吹奏楽部ならコンテスト前で結構遅くまでやってるはずだ。
　俺が休んでいる間に練習がどこまで進んでいるのかが気になるところだったが、もう少しここで休んでから行っても大丈夫だろう。
　……空そらと海かい、今頃なにやってんのかな………。
　冷たい風に着込んできたコートの襟に顔を埋める。
　空と海は家が近くて小さい頃から一緒に遊んでいたいわゆる幼馴染だ。腐れ縁が続いて、今は同じ学校、同じ部活、同じ楽器パートを吹いている。
　今日の練習、先輩と二人だけで合わせてんのかな……
　俺はもう少し此処で休んだらまず最初に自分のパートの練習教室を見に行ってみようと思った。