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A ghost.


夜。
俺は雪の積もった道を校舎に向かって歩いている。
隣に新垣と片野そして前には桜井。
目標は南舎1階、最西端に位置する理科室。
そこで起こったユウレイ騒ぎを遊び半分で見に行くのが目的だった。

事の発端は今日の朝。

「はぁ?? この季節にユウレイ??」
「そうそう。片野の奴が見たんだってさ。理科室で」
「こんな雪の降る時期に??」
苦笑しながら言う新垣の言葉に耳を傾ける。
「一昨日の夜、塾帰りに校庭に置き忘れたジャージ取りに来たら見たんだと」
「どうせ何か見間違えたんじゃねぇの??」
「多分そうだろうな。理科室の窓にぼんやり浮かぶ白い影を見たっていってるから」
「へぇ……」
嘘くさいと思いつつも俺は目の前を通り過ぎようとする片野を呼び止めた。
「お前ユウレイ見たんだって??」
「まぁ。今思えば自分でも嘘っぽいって思うけど」
片野は少し照れながら答えた。
「でも本当になんか見たんだって。窓に白っぽいものが見えてそれが動いて見え隠れしてんの」
「カーテンとかみ間違えたんじゃねぇの??」
新垣がニヤニヤしながら訊く

しかし片野はそれは絶対無いと否定した。
「最初泥棒かなんかの類だと思ったぐらいの動きしてたしさ。何か探し回るような。ま、何か盗まれたなんて噂はきいてないから本当に泥棒だってことはなかったろうけど。でもあの動きはカーテンとかの見間違いなんかじゃねぇよ」
結構真剣な顔して語る片野を見ながら、それでもやっぱありえねぇだろと言い返す新垣の言葉に俺は賛同していた。
「でも知ってる?? 昔あの理科室で首つった生徒がいるらしいよ??」
いきなり俺の後ろで声がした。
振り向くと桜井がいる。
「あたしもその話し聞いたの。昨日美紀も見たんだってさ。理科室のユウレイ」
そこからとんとん拍子に今日の夜理科室を見に来る話がまとまったというわけだ。
まぁ、話がまとまったって言ってもそんなたいした事じゃない。丁度此処にいる人間は塾が同じで、片野がユウレイを見た時のように帰りに少し寄ってみればいいって話になったのだ。



「さむ……。時間は??」
いきなり今までの沈黙を破って桜井が振り返る。
「10時10分ちょい」
片野がめんどくさそうに携帯を取り出し答える。
「確か片野がこの前見たのは15分頃なんでしょ??」
桜井は更に尋ねる。
「まぁ、多分そんぐらいだったと思う。」
時間なんか確認したりしてねぇよとぶっきらぼうにかえす片野。
「そういや鍵はどうした」
今度は新垣が聞く。
「あぁそれは理科室の横の外とつながる扉の鍵、持ってるから大丈夫」
しれっと答える桜井。
「生徒会長の特権ってやつ??」
そう言って少しにやっと笑うと指で鍵をくるくる回す。

ドサっっっ

時折気に積もった雪が落ちてくる音が聞こえる。
「ひっっ!?」
片野のひきつった声も聞こえる。
「……いこっか……」
桜井の言葉に俺らは少し顔を見合わせて校門をくぐった。


少し歩くと今まで木に隠れて見えなかった理科室が見えた。
「え……??」
突然桜井が声を出した。

!!!
俺も目を見張った。
皆も足を止めた。
オレンジ色の弱い光がフワフワと浮遊してるのが理科室の窓から見える。
隣を見ると新垣も片野もただその光1点を見つめて突っ立っている。
暫くすると話に出てきた白い幽霊らしきものの姿も見えた。
聞いたとおりにそいつは見え隠れしながらせわしく動いている。
暫く沈黙が続いた。

「……兎に角行ってみるぞ」
新垣が言う。
俺らは頷いて理科室に近寄った。
なおも白い影はオレンジ色の光とともに浮いている。

ガチャ……

理科室の横の扉の鍵が開いた。
桜井がそのままドアノブに手をかけたが
「ゴメン。誰か最初に入って……」
そう怖じ気ついたように声を出して手を引っ込めた。
俺は片野をひじでつつく。
しかし片野も動こうとはしない。
「んじゃ、俺……行くよ」
暫くしてから新垣がそう言ってドアノブに手をかけた。
このまま突っ立っていても意味が無い。
そっと手をひねる。
扉が開いた―――

新垣に続いてそっと室内に1歩を踏み出す。
街頭の光が室内まではあまり届かない。
「おい―――片野。懐中電灯」
前に居る新垣の手が伸びる。
流石に堂々と電気をつけるのはマズイ。 懐中電灯の光だけが頼りだ。
あ、あたしが持ってる。そう言ってスイッチをつけて手渡す桜井。
理科室を光の輪がとらえる。
室内を一通り見渡したが光と白い物体は消えている。
「……何もいねぇじゃん」
ぼそっとつぶやく新垣。今まで外にいた片野と桜井もそっと入ってくる。
入り口の近くに持っていた荷物をかためておいて少しの間俺らは室内を歩き回った。
無論理科準備室の方も確かめた。
しかし俺ら4人以外動くものすら無い。
「さっき見たやつは何処いったんだよ……」
準備室の壁にもたれかかり苛立たしげに新垣が呟く。
皆動きを止めて気味悪そうな顔して黙り込む。
再び長い沈黙が続いた。
 
っと―――その時。

ガタッ……


隅で物音がした。
その場にいる4人全員に緊張が走る。
新垣が恐る恐る懐中電灯を向ける。

ガタッガタガタガタッ……

その光の先にあった物は光を反射して白く不気味に動く骸骨だった。
なおも動き続ける骨格標本。
本当の恐怖を味わった時は声が出ないものだと聞いたことがあるが今まさにその状態だ。
「い……ゃ……キャ―――!!」
何分経ったのだろうか。――いや、実質は数秒しか経ってなかったのかもしれない。
無音の空間を桜井の悲鳴が切り裂いた。
骨格標本の動きが止まる。

その悲鳴に我に帰った俺たちは出口へと走り寄った。
しかし焦りが空回りして準備室の扉が開かない。

コツコツコツ……

後から足音が音が近づく。
もう駄目だ。


そう思った時―――普段聞きなれた声が響いた。

「ッたくお前ら脅かすなよ」

俺らは振り向く。
「谷岡先生……!!」
そこに突っ立っていたのは白衣を身にまとった理科教師谷岡先生だった。
今年で28になるこの先生は少し間抜けた所もある明るい先生で生徒にまぁまぁの人気がある。
その先生が照れ笑いと苦笑いと安堵が混じったような複雑な表情をしてそこにいた。


数分後、しつこく事情を訊く俺らに先生は仕方なく話し始めた。
俺らは円になって床に座る。

「いや……な。1年の数学担当の中西先生いるだろ?? そう。メガネかけた背の低い若い先生。まぁ……その中西先生と2年ちょっと、その付き合ってるんだ」
しってるよー、と口をはさむ桜井。
え?? 知ってるのか!? と谷岡は気まずそうに顔を伏せた。
「そんでな、そろそろプロポーズしようと思って指輪買ったんだよ。俺。そう。婚約指輪」
この時期にプロポーズできれば春休みぐらいに式が挙げられるかと思ってさ。と谷岡は付け足す。
「そんで3日前の月曜日、それを持って学校に来たんだ。放課後渡そうと思って」
そこで谷岡はため息をついて話を切った。
「で、わたせたの??」
続きを求めるように桜井が訊く。
しかし、谷岡は、でもなぁ……と言葉を濁した。
「……わたせなかったんだな」
そんな谷岡をみて、新垣が小さく鼻で笑う。
「机の床に置いとくのが心配だったからって白衣のポケットに入れといたのが不味かったんだ。実験中にアルコールランプつけようとしてた生徒のマッチが火のついたまま飛んできたんだよ」
「3組の萩本??」
どうやら、すでに聞いていたらしい片岡は口をはさむ。
あぁそう。3組の萩本だよ。そう谷岡は苦笑する。
「その萩本のせいで、丁度ポケットの中に滑り込んで指輪がいれてあった箱に火がついて、綺麗にラッピングしてもらったのが台無しになったってわけだよ」
慌てて火ぃ消したから中まで燃えてはいないと思ったけど、とため息をつきながら力なく笑う谷岡。
そして、それだけならまだよかったんだけど、と言葉を続ける。
「授業が終わった後、一応準備室で指輪を出して無事かどうか確認してみようとしてさ。その時に慌ててたせいか指輪落として無くしちゃってさ……辺り探したけど全く見つからなくて」
だんだん、谷岡の語りが暗くなっていく。頭にキノコが生えそうな感じだ。
「箱は買った店に持っていけば変えてくれるって言ってくれたんだが、でも肝心の指輪がなぁ……買いなおすには値段がアレだし公に探して噂になると困るし……」
「みんなもう知ってたけどね」
「いやコレでも付き合い隠してたんだぞ。噂になってるとか思ってなかったしさ」
桜井の突っ込みに苦笑いで応える谷岡。
「まぁ、そういう訳で鍵は持ってるし3日前から夜忍び込んで探してた訳」
と最後は話を締めくくった。
桜井にからかわれて、少し照れながら必死に言い訳をつける。
「さっきだって警備の人が来たのかと思ってあわてて骨格標本のとこに隠れてさー……」
「だから骸骨が動いてたんだな」
「しばらくして物音が聞こえなくなったから、もう大丈夫だって出ようとしたら悲鳴聞こえてあわてたよ」
まぁ、見つかったのがおまえらで助かったよ、と安堵の息をつく谷岡。
黙っておけよ?? と付け足すのも忘れない。
やっと、幽霊騒ぎの真相がわかった俺らはあきれた顔で頷いて顔を見合わせて改めてわらった。
全く持って迷惑な話だ。

でもそうすると、もしかしてこの幽霊騒ぎの原因は俺にもあるのかもしれない。
俺はかためておいてある荷物の中から筆箱を取ってくるとその中から銀色のある物を取り出した。
「牧村……それ俺の……」
先生は大げさに驚いた。
そりゃそうだろう。
3日間必死に探してたものがあっさり出てきたのだから。
「あ、じゃぁこの指輪先生の??」
俺は指輪を手渡しながらきく。
「3日前の放課後、科学部で此処にきたときに拾ってさ。薬品棚の下に落ちてたよ」
指輪を受け取り自分のものか確認する先生。
俺的に何と無く職員室に届けるのが面倒臭くてとりあえず筆箱に入れたままになってたのだ。

「……ま、兎に角見つかって良かった」
暫く経ってから放心状態の先生が言った。
「ったくお前そういうのは職員室に届けろよ」
新垣が不服そうに苦笑する
「別にいいんじゃない?? 先生おおやけにしたくなかったんだし」
そう言って片野も微笑む。
「それに落し物で届けられた指輪受け取るのもかわいそうだよ。中西センセ」
そして桜井も笑った。

そんな訳で幽霊騒ぎは幕を閉じた。

付け加える事があるのならば中西先生のプロポーズは成功し、4月3日に挙式する事。それに俺らも招待された事ぐらいだろうか。





end.















2008/07/26